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M.purpureus、M.pilosus、M.ruberなど、[[モナスカス]]属で[[デンプン]]質食品(主に米)を発酵させたものを'''紅麹'''と呼び、古くから[[中国]]や[[台湾]]および[[沖縄]]において、[[紅酒]]や[[豆腐よう]]などの[[発酵食品]]に利用されている<ref name="yasuda">{{Cite journal |和書|author =安田正昭|title =ユニークな大豆発酵食品(とうふよう)の科学と技術展開|url=https://doi.org/10.1271/nogeikagaku1924.75.580|date =2001|publisher =日本農芸化学会|journal =日本農芸化学会誌|volume =75|issue =5|doi=10.1271/nogeikagaku1924.75.580|pages =580-583|ref = }}</ref><ref name="yasuda1">{{Cite journal|和書|author=安田正昭 |date=1983-11 |url=https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1915.78.839 |title=豆腐ようと紅麹(1) |journal=日本醸造協会雑誌 |ISSN=0369416X |publisher=東京 : 日本醸造協会 |volume=78 |issue=11 |pages=839-842 |doi=10.6013/jbrewsocjapan1915.78.839 |CRID=1521980705818618880}}</ref>。 |
M.purpureus、M.pilosus、M.ruberなど、[[モナスカス]]属で[[デンプン]]質食品(主に米)を発酵させたものを'''紅麹'''と呼び、古くから[[中国]]や[[台湾]]および[[沖縄]]において、[[紅酒]]や[[豆腐よう]]などの[[発酵食品]]に利用されている<ref name="yasuda">{{Cite journal |和書|author =安田正昭|title =ユニークな大豆発酵食品(とうふよう)の科学と技術展開|url=https://doi.org/10.1271/nogeikagaku1924.75.580|date =2001|publisher =日本農芸化学会|journal =日本農芸化学会誌|volume =75|issue =5|doi=10.1271/nogeikagaku1924.75.580|pages =580-583|ref = }}</ref><ref name="yasuda1">{{Cite journal|和書|author=安田正昭 |date=1983-11 |url=https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1915.78.839 |title=豆腐ようと紅麹(1) |journal=日本醸造協会雑誌 |ISSN=0369416X |publisher=東京 : 日本醸造協会 |volume=78 |issue=11 |pages=839-842 |doi=10.6013/jbrewsocjapan1915.78.839 |CRID=1521980705818618880}}</ref>。 |
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紅麹の文献上の初出は『[[日用本草]]』(1329年)であるが、それ以前の文献に「紅酒」の記述が存在することから、更に昔から利用されてきたと考えられている。 |
紅麹の文献上の初出は『[[日用本草]]』(1329年)であるが、それ以前の文献に「紅酒」の記述が存在することから、更に昔から利用されてきたと考えられている。 |
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⚫ | [[1979年]]、日本の[[遠藤章 (農芸化学者)|遠藤章]]によって{{snamei|M. rubber}}、{{snamei|M. pilosus}}、{{snamei|M. pubigerus}}など、一部の''Monascas''属の菌株が生産する物質が[[血清]][[コレステロール]]降下作用を示すことが示され、モナコリンK (Monacolin K) と名付けられた<ref>{{Cite journal |author =Endo A|title =Monacolin K, a new hypocholesterolemic agent produced by a ''Monascus'' species |date =1979|journal =The Journal of Antibiotics |volume =32|issue =8|pages =852-854|pmid = 500505 | doi=10.7164/antibiotics.32.852 |url=https://doi.org/10.7164/antibiotics.32.852}}</ref>。このモナコリンKは海外で[[医薬品]]として血清コレステロール降下薬として認められている[[スタチン#一覧|ロバスタチン]]と同一のものである。 |
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[[カビ毒]]の[[シトリニン]]を産生する菌株も存在する<ref>{{Cite journal|和書|author=比嘉悠貴, 深見裕之, 小野直亮, 金谷重彦 |date=2022-07 |url=https://doi.org/10.2520/myco.72-2-1 |title=食品に利用される紅麹菌のカビ毒シトリニンに関する研究 |journal=マイコトキシン |ISSN=0285-1466 |publisher=日本マイコトキシン学会 |volume=72 |issue=2 |pages=97-101 |doi=10.2520/myco.72-2-1 |CRID=1390293095147192320}}</ref>が、日本で主に使われているM. pilosus株はシトリニンを生成しないとされている。 |
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⚫ | [[1979年]]、日本の[[遠藤章 (農芸化学者)|遠藤章]]によって{{snamei|M. rubber}}、{{snamei|M. pilosus}}、{{snamei|M. pubigerus}}など、一部の''Monascas''属の菌株が生産する物質が[[血清]][[コレステロール]]降下作用を示すことが示され、モナコリンK (Monacolin K) と名付けられた<ref>{{Cite journal |author =Endo A|title =Monacolin K, a new hypocholesterolemic agent produced by a ''Monascus'' species |date =1979|journal =The Journal of Antibiotics |volume =32|issue =8|pages =852-854|pmid = 500505 | doi=10.7164/antibiotics.32.852 |url=https://doi.org/10.7164/antibiotics.32.852}}</ref>。このモナコリンKは海外で[[医薬品]]として血清コレステロール降下薬として認められている |
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また、紅麹は生成物として[[γ-アミノ酪酸|GABA]]も多く含んでおり、[[血圧]]降下作用を持つ<ref>{{Cite journal |author=小浜靖弘, 松本茂, 三村務, 田辺伸和, 稲田昭, 中西勤 |year=1987 |url=https://doi.org/10.1248/cpb.35.2484 |title=Isolation, Identification of Hypotensive Principles in Red-Mold Rice(Biological) |journal=Chem. Pharm. Bull. |ISSN=00092363 |publisher=日本薬学会 |volume=35 |pages=2484-2489 |CRID=1571698602255486208 |doi=10.1248/cpb.35.2484}}</ref>ことから[[健康食品]]としても注目を集め様々に利用されている<ref>{{Cite journal|和書|author=西谷真人, 稲垣雅 |year=2009 |url=https://doi.org/10.1625/jcam.6.45 |title=健康維持・補完代替医療素材としての紅麹 |journal=日本補完代替医療学会誌 |ISSN=13487922 |publisher=日本補完代替医療学会 |volume=6 |issue=2 |pages=45-51 |doi=10.1625/jcam.6.45 |CRID=1390001205218449280}}</ref>。 |
また、紅麹は生成物として[[γ-アミノ酪酸|GABA]]も多く含んでおり、[[血圧]]降下作用を持つ<ref>{{Cite journal |author=小浜靖弘, 松本茂, 三村務, 田辺伸和, 稲田昭, 中西勤 |year=1987 |url=https://doi.org/10.1248/cpb.35.2484 |title=Isolation, Identification of Hypotensive Principles in Red-Mold Rice(Biological) |journal=Chem. Pharm. Bull. |ISSN=00092363 |publisher=日本薬学会 |volume=35 |pages=2484-2489 |CRID=1571698602255486208 |doi=10.1248/cpb.35.2484}}</ref>ことから[[健康食品]]としても注目を集め様々に利用されている<ref>{{Cite journal|和書|author=西谷真人, 稲垣雅 |year=2009 |url=https://doi.org/10.1625/jcam.6.45 |title=健康維持・補完代替医療素材としての紅麹 |journal=日本補完代替医療学会誌 |ISSN=13487922 |publisher=日本補完代替医療学会 |volume=6 |issue=2 |pages=45-51 |doi=10.1625/jcam.6.45 |CRID=1390001205218449280}}</ref>。 |
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天然色素として美しい色が出る上に、健康にも良いので、日本などでは幅広く利用されているが、微量ながらカビ毒を生成する種もあるので、紅麹の食品利用自体が禁止されている国もある。 |
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日本では、[[グンゼ]]が1985年にM. pilosus株の量産に成功し、それを2016年に継承した[[小林製薬]]が日本国内工場で製造したものが主に使われている。 |
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==着色料として== |
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''Monascus''属が生産する赤色[[色素]](紅麹色素またはモナスカス色素と呼ばれる)は古くから天然の[[着色料]]として利用されている<ref name="yasuda"/>。主要成分は[[アンカフラビン]](''{{lang-en-short|Ankaflavin}}'')および[[モナスコルブリン]](''{{lang-en-short|Monascorubrin}}'')などの[[ブテノリド]]で、1985年頃は主に[[かまぼこ]]などの[[練り製品]]などに用いられる<ref name="endo"/>程度だったが、その後は日本人の嗜好に合った菌種の開発や大量生産などが行われ、綺麗なピンク色の出る色素として幅広く利用されるようになっている。 |
''Monascus''属が生産する赤色[[色素]](紅麹色素またはモナスカス色素と呼ばれる)は古くから天然の[[着色料]]として利用されている<ref name="yasuda"/>。主要成分は[[アンカフラビン]](''{{lang-en-short|Ankaflavin}}'')および[[モナスコルブリン]](''{{lang-en-short|Monascorubrin}}'')などの[[ブテノリド]]で、1985年頃は主に[[かまぼこ]]などの[[練り製品]]などに用いられる<ref name="endo"/>程度だったが、その後は日本人の嗜好に合った菌種の開発や大量生産などが行われ、綺麗なピンク色の出る色素として幅広く利用されるようになっている。 |
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メーカーとしては、[[ヤヱガキ酒造]]、[[グリコ栄養食品]](モナスカラー)、[[理研ビタミン]](リケカラー)などがある。色素生産性に優れたM.anka株が主に使われている。M.ankaは微量ながらカビ毒シトリニンを生成する株もあるが、紅麹から色素のみを抽出し、シトリニンは含まれない。 |
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==危険性== |
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*の種は、[[シトリニン]]という[[動物]]に対し[[毒性]]のある物質を産生しており、シトリニンが[[サプリメント]]等の製品に極微量ではあるが混入していることを懸念する声もある。 |
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*[[紅麹]]を原材料とする[[サプリメント]]による健康被害は、[[2014年]]頃から既に[[ヨーロッパ]]で報告されており、[[日本]]でも2014年3月、[[食品安全委員会]]が「紅麹を由来とする[[サプリメント]]に注意」とする注意喚起を行っていた。[[EU]]は、一部の紅麹菌株が生産する有毒物質である[[シトリニン]]のサプリメント中の基準値を設定したほか、[[フランス]]では摂取前に[[医師]]に相談するように注意喚起しており、[[スイス]]では紅麹を成分とする製品は、[[食品]]としても[[薬品]]としても売買は違法とされていた<ref name="fsc.go">{{Cite web|date=|url=https://www.fsc.go.jp/sonota/kigai_jyoho/benikouji_supplement.html|title=紅麹を由来とするサプリメントに注意(欧州で注意喚起)|publisher=食品安全委員会|accessdate=2024-3-27}}</ref><ref>[https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu04000700505 食品安全関係情報詳細:スイス連邦食品安全獣医局(BLV)、紅麹を成分に含む食品の売買は違法と注意喚起] 食品安全委員会2014年3月14日</ref>。 |
*[[紅麹]]を原材料とする[[サプリメント]]による健康被害は、[[2014年]]頃から既に[[ヨーロッパ]]で報告されており、[[日本]]でも2014年3月、[[食品安全委員会]]が「紅麹を由来とする[[サプリメント]]に注意」とする注意喚起を行っていた。[[EU]]は、一部の紅麹菌株が生産する有毒物質である[[シトリニン]]のサプリメント中の基準値を設定したほか、[[フランス]]では摂取前に[[医師]]に相談するように注意喚起しており、[[スイス]]では紅麹を成分とする製品は、[[食品]]としても[[薬品]]としても売買は違法とされていた<ref name="fsc.go">{{Cite web|date=|url=https://www.fsc.go.jp/sonota/kigai_jyoho/benikouji_supplement.html|title=紅麹を由来とするサプリメントに注意(欧州で注意喚起)|publisher=食品安全委員会|accessdate=2024-3-27}}</ref><ref>[https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu04000700505 食品安全関係情報詳細:スイス連邦食品安全獣医局(BLV)、紅麹を成分に含む食品の売買は違法と注意喚起] 食品安全委員会2014年3月14日</ref>。 |
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== 日本におけるベニコウジカビ == |
== 日本におけるベニコウジカビ == |
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肌着大手の[[グンゼ]]は、非繊維部門の強化の一環として1982年にバイオテクノロジー部門を設け、国立栄養研究所の辻啓介との共同研究により、1985年に国内初となる紅麹の大量生産に成功。1985年より紅麹を利用した健康食品「ベニエット」シリーズの販売を開始し、味噌・醤油やパン・製菓材料など幅広く展開した。 |
肌着大手の[[グンゼ]]は、非繊維部門の強化の一環として1982年にバイオテクノロジー部門を設け、国立栄養研究所の辻啓介との共同研究により、1985年に国内初となる紅麹の大量生産に成功。1985年より紅麹を利用した健康食品「ベニエット」シリーズの販売を開始し、味噌・醤油やパン・製菓材料など幅広く展開した。 |
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紅麹は古くから食品などに利用されてきたが、発がん性物質などは検出されなかった<ref name="endo">{{Cite journal|和書|author=遠藤章 |date=1985-06 |title=紅麹と紅麹菌をめぐる歴史と最近の動向 |journal=発酵と工業 |ISSN=03860701 |publisher=東京 : バイオインダストリー協会 |volume=43 |issue=6 |pages=544-552 |id={{NDLJP|2375879}} |doi=10.11501/2375879 |url=https://dl.ndl.go.jp/pid/2375879/1/11}}</ref>。しかし遠藤章 |
紅麹は古くから食品などに利用されてきたが、発がん性物質などは検出されなかった<ref name="endo">{{Cite journal|和書|author=遠藤章 |date=1985-06 |title=紅麹と紅麹菌をめぐる歴史と最近の動向 |journal=発酵と工業 |ISSN=03860701 |publisher=東京 : バイオインダストリー協会 |volume=43 |issue=6 |pages=544-552 |id={{NDLJP|2375879}} |doi=10.11501/2375879 |url=https://dl.ndl.go.jp/pid/2375879/1/11}}</ref>。しかし遠藤章、微量ながらカビ毒のシトリニンを産出する紅麹菌があるがてきた<ref>『温古知新』1994年8月号、p.14、秋田今野商店、「紅麹菌とコレステロール低下薬」遠藤章</ref> |
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| status = patent |
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| inventor = 遠藤章 |
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| title = 紅麹色素の製造方法 |
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| issue-date = 1994-04-13 |
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| patent-number = 特開平07-274978 |
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| country-code = JP}}</ref>。1995年、遠藤はM.anka株を用いてシトリニンの含まれない紅麹色素を生産する方法を発明した(特開平07-274978)。 |
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グンゼの紅麹は、1996年に「トクホ」の認可を得て販売を急拡大し、1998年には出荷数量が50トン、末端市場は50億円を突破した<ref>{{Cite web|date=|url=https://news.nissyoku.co.jp/news/nss-8351-0001|title=グンゼの健康商品「紅麹」関連市場が急拡大 大幅増産へ|publisher= 日本食糧新聞|accessdate=2024-3-27}}</ref>。2007年、グ���ゼはモナコリンK含量が2%を超える高濃度モナコリンK紅麹菌株の特許を取得した(特許第5283363号)。 |
グンゼの紅麹は、1996年に「トクホ」の認可を得て販売を急拡大し、1998年には出荷数量が50トン、末端市場は50億円を突破した<ref>{{Cite web|date=|url=https://news.nissyoku.co.jp/news/nss-8351-0001|title=グンゼの健康商品「紅麹」関連市場が急拡大 大幅増産へ|publisher= 日本食糧新聞|accessdate=2024-3-27}}</ref>。2007年、グンゼはモナコリンK含量が2%を超える高濃度モナコリンK紅麹菌株の特許を取得した(特許第5283363号)。 |
2024年3月29日 (金) 07:28時点における版
ベニコウジカビ | |||||||||||||||||||||
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ベニコウジカビを繁殖させた米(紅麹)
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Monascus purpureus Went (1895) |
ベニコウジカビ(紅麹黴、学名:Monascus purpureus)は糸状菌の一種である。
概要
M.anka、M.purpureus、M.pilosus、M.ruberなど、モナスカス属でデンプン質食品(主に米)を発酵させたものを紅麹と呼び、古くから中国や台湾および沖縄において、紅酒や豆腐ようなどの発酵食品に利用されている[1][2]。
紅麹の文献上の初出は『日用本草』(1329年)であるが、それ以前の文献に「紅酒」の記述が存在することから、更に昔から利用されてきたと考えられている。そのため、食品として安全だと考えられてきたが、カビ毒のシトリニンを産生する菌株も存在する[3]ことが1994年に判明した。中国などで主に使われているM. purpureus株には、微量ながらシトリニンを生成するものも存在するが、日本で主に利用されているM. pilosus株はシトリニンを生成しない。
1979年、日本の遠藤章によってM. rubber、M. pilosus、M. pubigerusなど、一部のMonascas属の菌株が生産する物質が血清コレステロール降下作用を示すことが示され、モナコリンK (Monacolin K) と名付けられた[4]。このモナコリンKは海外で医薬品として血清コレステロール降下薬として認められているロバスタチンと同一のものである。このロバスタチンは、日本国内ではモナコリンKの特許のため非承認だったが、コレステロールを下げる画期的な薬(スタチン系第1世代)として1987年に上市され、幅広く使われた。
また、紅麹は生成物としてGABAも多く含んでおり、血圧降下作用を持つ[5]ことから健康食品としても注目を集め様々に利用されている[6]。
天然色素として美しい色が出る上に、健康にも良いので、日本などでは幅広く利用されているが、微量ながらカビ毒を生成する種もあるので、紅麹の食品利用自体が禁止されている国もある。
日本では、グンゼが1985年にM. pilosus株の量産に成功し、それを2016年に継承した小林製薬が日本国内工場で製造したものが主に使われている。
着色料として
Monascus属が生産する赤色色素(紅麹色素またはモナスカス色素と呼ばれる)は古くから天然の着色料として利用されている[1]。主要成分はアンカフラビン(英: Ankaflavin)およびモナスコルブリン(英: Monascorubrin)などのブテノリドで、1985年頃は主にかまぼこなどの練り製品などに用いられる[7]程度だったが、その後は日本人の嗜好に合った菌種の開発や大量生産などが行われ、綺麗なピンク色の出る色素として幅広く利用されるようになっている。
メーカーとしては、ヤヱガキ酒造、グリコ栄養食品(モナスカラー)、理研ビタミン(リケカラー)などがある。色素生産性に優れたM.anka株が主に使われている。M.ankaは微量ながらカビ毒シトリニンを生成する株もあるが、紅麹から色素のみを抽出し、シトリニンは含まれない。
危険性
- いくつかの種は、シトリニンという動物に対し毒性のある物質を産生しており、シトリニンがサプリメント等の製品に極微量ではあるが混入していることを懸念する声もある[8]。
- 紅麹を原材料とするサプリメントによる健康被害は、2014年頃から既にヨーロッパで報告されており、日本でも2014年3月、食品安全委員会が「紅麹を由来とするサプリメントに注意」とする注意喚起を行っていた。EUは、一部の紅麹菌株が生産する有毒物質であるシトリニンのサプリメント中の基準値を設定したほか、フランスでは摂取前に医師に相談するように注意喚起しており、スイスでは紅麹を成分とする製品は、食品としても薬品としても売買は違法とされていた[9][10]。
日本におけるベニコウジカビ
1973年、三共(現・第一三共)の遠藤章がアオカビから最初のスタチンであるメバスタチンを発見し、1974年に特許を出願する。これにより世界の各社でスタチンの開発が盛んになった。メバスタチンは血中コレステロールが効果的に下がる効果が認められたが、一方で肝毒症の症状が出たため、三共は商品化に難航した[11]。一方、三共と共同開発を行うという前提でメバスタチンのデータを提供されていたメルクは、1978年にコウジカビから「ロバスタチン」を分離し、1979年6月に三共に断りなく特許を取得したが[12]、これも肝毒性があった。1987年にメルクが最初のスタチン製品として「ロバスタチン」を発売。三共は最終的にメバスタチンの開発を中止し、1989年にようやく別のスタチンである「プラバスタチン」の発売にこぎつけた。
1979年、東京農工大学教授となった遠藤はベニコウジカビから別のスタチンである「モナコリンK」を発見。後に「モナコリンK」と「ロバスタチン」は同一のものだと判明する(「モナコリンK」の特許のため、メルク社の「ロバスタチン」は日本では販売されていない)。天然色素として美しい色が出る上に、コレステロールを下げるということで、この頃より日本で紅麹菌の研究および利用が盛んになる。
遠藤章はベニコウジカビからモナコリンを発見したことがきっかけで、Monascus属および紅麹について強い関心を抱き、研究を行った。当時、紅麹は中国・台湾・沖縄などでは食品として利用されていたが、日本では紅麹の産出する色素を天然色素として利用するのみで、食品としての工業生産化はされていなかった。1985年、遠藤は日本人の嗜好に合った新しい菌の選抜を行い、中でもM. pilosus系の株が高い評価を得た[7]。遠藤はヤヱガキ酒造などの企業とも積極的にコラボを行った。
肌着大手のグンゼは、非繊維部門の強化の一環として1982年にバイオテクノロジー部門を設け、国立栄養研究所の辻啓介との共同研究により、1985年に国内初となる紅麹の大量生産に成功。1985年より紅麹を利用した健康食品「ベニエット」シリーズの販売を開始し、味噌・醤油やパン・製菓材料など幅広く展開した。
紅麹は古くから食品などに利用されてきたが、発がん性物質などは検出されなかった[7]。しかし遠藤章は、微量ながらカビ毒のシトリニンを産出する紅麹菌があり、従来食用に供されてきた紅麹色素の多くのものに微量ではあるがシトリニンが含有されていることを1994年に突き止めた[13][14]。1995年、遠藤はM.anka株を用いてシトリニンの含まれない紅麹色素を生産する方法を発明した(特開平07-274978)。
グンゼの紅麹は、1996年に「トクホ」の認可を得て販売を急拡大し、1998年には出荷数量が50トン、末端市場は50億円を突破した[15]。2007年、グンゼはモナコリンK含量が2%を超える高濃度モナコリンK紅麹菌株の特許を取得した(特許第5283363号)。
2016年2月、グンゼは紅麹事業および「ベニエット」事業を小林製薬に譲渡した[16]。小林製薬は、国内で紅麹を量産する唯一のメーカーであるグンゼから高モナコリンK紅麹菌株およびその特許を譲り受け、小林製薬大阪工場(大阪市淀川区)で生産を開始した。
2020年、小林製薬の中央研究所がM. pilosus株の全ゲノムを解析。日本で主に利用されているM. pilosus株はベニコウジカビの中で唯一カビ毒シトリニンが生成不能であることを証明した[17]。
小林製薬「紅麹」問題
2021年、小林製薬は史上初となる「紅麹由来成分を機能性関与成分とした、LDL(悪玉)コレステロールを下げる機能性表示食品」[18](健康補助食品)を発売した。
2024年3月、小林製薬の製品で健康被害が報告され[19][20][21]、3種類5製品、約30万袋が自主回収されることになった[22]。有害物質はシトリニンではなく、2024年3月時点では「未知の物質」[22]で、稀に腎疾患を発症するという。
- 小林製薬がこの成分を分析した結果、同社の意図しなかった成分の含有が判明した。この成分の特定と利用者の疾病との関連性は不明だが、健康への影響を防ぐ観点から、当該商品の服用・飲用の中止と自主回収を呼びかけている[23]。
- このベニコウジ含有の機能性表示食品の服用者による死者は同年3月25日に初めて確認され、その後も死亡者・入院者などの被害者が複数人確認されている。またこのベニコウジを食品原料としているものは、日本国内においては飲料品メーカーや食品メーカーなど170社(出典には52社とあったがその後追加)に供給されている[24]。
脚注
- ^ a b 安田正昭「ユニークな大豆発酵食品(とうふよう)の科学と技術展開」『日本農芸化学会誌』第75巻第5号、日本農芸化学会、2001年、580-583頁、doi:10.1271/nogeikagaku1924.75.580。
- ^ 安田正昭「豆腐ようと紅麹(1)」『日本醸造協会雑誌』第78巻第11号、東京 : 日本醸造協会、1983年11月、839-842頁、CRID 1521980705818618880、doi:10.6013/jbrewsocjapan1915.78.839、ISSN 0369416X。
- ^ 比嘉悠貴, 深見裕之, 小野直亮, 金谷重彦「食品に利用される紅麹菌のカビ毒シトリニンに関する研究」『マイコトキシン』第72巻第2号、日本マイコトキシン学会、2022年7月、97-101頁、CRID 1390293095147192320、doi:10.2520/myco.72-2-1、ISSN 0285-1466。
- ^ Endo A (1979). “Monacolin K, a new hypocholesterolemic agent produced by a Monascus species”. The Journal of Antibiotics 32 (8): 852-854. doi:10.7164/antibiotics.32.852. PMID 500505 .
- ^ 小浜靖弘, 松本茂, 三村務, 田辺伸和, 稲田昭, 中西勤 (1987). “Isolation, Identification of Hypotensive Principles in Red-Mold Rice(Biological)”. Chem. Pharm. Bull. (日本薬学会) 35: 2484-2489. CRID 1571698602255486208. doi:10.1248/cpb.35.2484. ISSN 00092363 .
- ^ 西谷真人, 稲垣雅「健康維持・補完代替医療素材としての紅麹」『日本補完代替医療学会誌』第6巻第2号、日本補完代替医療学会、2009年、45-51頁、CRID 1390001205218449280、doi:10.1625/jcam.6.45、ISSN 13487922。
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- ^ 紅麹関連製品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ
- ^ 小林製薬の紅麹サプリ、摂取後死亡4人に日本経済新聞